日本人の住まい


明治のはじめ日本にやってきたアメリカの生物学者に、「エドワード・シルベスター・モース」と言う人がいる。東京大学(当時は帝国大学)で進化論の講義をしたり、江ノ島に最初に臨海研究所をつくったりした人である。何しろ、まだダーウィンが生きていた頃の事である。

その人が書いた書物に「日本人の住まい」と言う本がある。原題は「日本人の家と彼らの境遇」というが、実に興味深い本である。明治時代の日本の一般的な建築を細部に渡って紹介している。外観から、作り方、つくった大工のことまで、文章と、綿密な挿し絵で説明する。大工にとっても一級の資料と言えよう。

この本の良いところは、民族的な、あるいは宗教的な偏見をなくしてかかれているところである。生物学者という立場がそうさせるのか、読んでいて心地がよい。アメリカの大工は移民の子なので、ほとんどの場合、親は大工ではなく、建築の伝統技法が受け継がれていないと言う。道具も機械に頼るので、大がかりで、通り一遍のことしかできないという。日本の大工は、墨坪、チョウナ、手鉋といったわずかな原始的な道具で、創意工夫をしてものをつくると記述している。

少し耳の痛い部分もある。現代の日本はほとんどアメリカ式になったかもしれないからだ。読んでいてためになることも多い。住宅に紙を貼り付ける場合、糊を使わずに海草を使うのは、虫が付かないようにするため、とか、土壁のままだと汚れたり、傷ついたりするので、腰張りの変わりに2フィートぐらいまでは紙が貼られている。とか、床の間の奥行きは部屋の大きさによって決められているとか、今でも応用できそうなことが随所にある。

つまり、我々が捨ててしまった、日本建築の原点が、ここにある。皮肉なものである。

モースの洞察力のすごいところは、明治の日本のおいてでさえ、後数十年でこの本に書かれた資料を採取するのは困難になるだろうと、予想している。だから、アメリカやヨーロッパに日本の建築を紹介するだけでなく、未来の日本人に向かっても語られていることである。また、日本の当たり前の生活と、外国で取り引きされる日本製品と言われるものが、違うことも指摘している。実に深い話だ。

その後起こった日本の民芸運動の原点ともいえるこの本、日本建築のバイブルとして多くの人に読み次がれることを望むものである。

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