集団移住「皆が平等に」


皆が平等に

今から思えば、一体どういう考え・思いで、移住が行われたのか

細部について再現するのは難しい。それでも、村中で相談して決め

て、それが皆、滞りなく守られて、秩序のあるままに現地に移り住

めたと云うことは、まさに奇跡に近いと思う。「とにかく新天地で、

平等に、楽しく暮らす」という暗黙の理念が巧く共有されていたの

かもしれない。それとベースには厳しい自然の中なので、いざとい

うときには、一致団結して力を合わすといった運命共同体意識とい

うか、村が一つの家族のような近しい関係だったことは大きく影響

しているだろう。今の茗荷村にも、よく似た感覚があり、ここは大

事にして欲しいと思う。

先日、ラジオ番組の取材があり、司会者の方から「平等という考

えは、どこから出てきたのですか。お金持ちからの反対はなかった

のですか?」という質問があった。どこか当たり前になっていたの

で気が付かなかったが、次のように答えた。室町時代頃に出来た「

惣村」の風習がまだ残っていたのではないか。例えば、村の経費の

徴収は惣が行っており、一年間の必要分を百で割り、その単位を本

とする。百本の経費を、村の有力者から順番に何本分納めるかを初

集会で決める。最後、残った部分は均等割で、払うのだがその時に

は誰でも払えるぐらいの額になっていて、落ちこぼれのないように

計らう。それでも年末にどうしても払えない人が出ると、役員や、総

代がその分を工面したりしてたのだろう。(当時、総代は資産家で

ないと出来ないと言われていた。)だから、みんなが平等になって

、同じスタートラインにつくというのは、資産家にとっても望みで

あったと思われる。

さて、それで移住の大事業が始まるのだが、全体は解らないので、

すこし建築のことに焦点を当てて語ろうかと思う。今なら、設計会

社や管理会社が居て物事を進めるのだろうが、何せ村営で事業を行

うということなので、近隣の大工さんにみんな声かけて、集まった30

人あまりの人に一枚の図面と、一本の間棹(ケンザオ)が渡された

と聞く。(間棹というのは大工の使う手作りの定規で、細い角材に、

家の縦横高さなどの全ての実寸を書き込んだ木の棒のことである

。)材料はそれに即した粗方の木材も順番に配られるのだが、今想像

するよりずっと簡単なやりとりで契約し、工事が始まった。残され

た資料を見る限り、契約書はない。一冊の大学ノートに、名前が書

いてあり、そこに各自のはんこが押してある。「大きさは二間梁、

桁行三間半のとこに両庇がつく。それに二間半の落ち屋がつく。三

十八坪で坪単価○○円や。やってくれるなら、帳面の自分の名前のと

こに判子押してくれるか?」ぐらいの感じであったろうか。

後は各大工さんに任せっきり。それでも棟上げの日に順番に柱が

立っていくとそれぞれ同じラインに六十戸分の骨組みが一直線に並

び、壮大な光景が見られた。棟上げや、壁下地、壁付けには三日に

開けず字民が動員されたので、毎日のように参加する人も居て、さな

がら祭りがずっと続いてるような賑やかさであった。もちろん我々

は慣れない仕事でみんなヘトヘトだったけれど。日本の職人さんは

 

素晴らしい。別々の仕事場で別々に作ってるのに、同じモノができ

あがっていく。誰も手抜きすることなく、必要以上に腕を奮われた

のだろう、瞬く間に、六十軒の家が建ち上がった。高校生の時、こ

の光景を見て不覚にも感動し、今の自分があると思う。

余談であるが、感謝を込めてその年の年末、全員の大工さんを集

めて近江温泉で慰労会が行われた。感謝はしていたが、あまりにほ

ったらかしで、不満がたまっていたらしい。ストライキも辞さぬ勢

いで、建設委員長の故・村山岩男氏に苦情が集まったらしい。当時

の伝票を見ると百四十本余りの酒代の請求書があり、大いに盛り上

がったようである。そのお陰で、滞りなく工事が進んだのは云うま

でのない。有難いことだ。

他にも、左官さん、瓦屋さん、板金屋さん、電気屋さん、表具屋

さん、畳屋さんなど、多くの職人さんに世話になった。多くの方が

鬼籍に入られたが、この場を借りて改めてお礼を言いたい。ちなみ

に、さん付けするのはだいたいの方が一人親方で、職人さんで、会社

イコール本人という個人事業主ばかりだからだ。この国がまだ、も

のづくり大国で、勢いのあった時代の話である。だからこそ、この移

住という偉業が出来上がったといえるだろう。(続く)

次回は移住後のことを書きます茅葺き民家

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