うまか卵に寄せて 茗荷村通信原稿6


Exif_JPEG_PICTUREうまか卵に寄せて

 理想的な家を想像するとき、いつも卵の殻を思い浮かべる。生命をはぐくむ外皮としての殻と、家は案外同じ役割を担っているといえるからだ。例えばプラスチックで作った卵型のケースと、本物の卵。見た目は変らないけれど、プラスチックからはひよこは絶対生まれない。卵は見えないけれど微細な隙間から、空気や湿気を通して呼吸して命を育んでいる。

そう思うようになったきっかけは43歳の時に突然なった病気にある。直接の原因はハウスシックだと思う。あちこちの病院をさまよい、病名が分かったのは2年後だった。治療法はまだないとも言われた。」体が反応するので仕事の現場に行くのもままならない日々が続いた。住む人の健康を守るはずの住宅が体を蝕んでいたことにとてもショックを覚えた。以来、自然素材による健康住宅を模索するようになった。

 実際調べてみると、驚きの連続であった。本来、日本の家屋は土と木と竹や草といった自然素材で出来ていて、空気や湿気はその生物的な微細な穴から出たり入ったりしてうまく調節されていたのであるが近年、住宅に石油化学製品を多用するようになってから空気を通さなくなった。壁に使うビニールクロスや断熱材、合板や漆喰に混ぜる接着剤などが流れを止めてしまったのである。また、住宅の断熱性能を上げるために採用した高気密化がそれに拍車をかけ、ますます息苦しくなってしまった。そればかりか、塗料や接着剤自体から揮発するホルムアルデヒドという有害物質が部屋の中に充満し、これが直接人の健康を蝕むようになったらしい。(こういう家に住んだら危険なので、換気扇を24時間廻しっぱなしにしなければならない。)現在住宅環境に存在する化学物質は900種類以上ある。そのうち、規制対象は13種類、しかも実際建築基準法で止められているのはホルムアルデヒド(接着剤)とクロルピリホス(シロアリ駆除剤)のたった2種類だけであるが、一旦、過敏症になると、他にもいろいろなものに反応してしまう。住宅そのものから出なくても、殺虫剤や芳香剤、家具の塗料など危険がいっぱいなのだが、国の対策は遅れ気味なので自分で自分を守るしかないのが現状である。移り住んだり、新築したとたん体の調子が悪くなった人は要注意だ。家が原因でないことを祈るばかりだが、私が至った結論は、とにかく家をビニールで包んだりしないということに尽きると思う。卵の殻のように、人をやさしく包み、呼吸を妨げない。なおかつ、夏は涼しく、冬は暖かい。これが理想の住まいの形である。(決してデザインが一番ではない。)

最近は、布のようなクロス、木のような建材、畳のような樹脂、紙のようなビニール。住宅は模造品が満載だ。一見心地よさそうに見えるそれらの偽物たちは、いつか内部から体を、心を蝕んでいく。普段から本物に触れ合うことで、見分ける眼と感覚を身に付けていく必要がある。仕事では本物の家づくりを目指し、そして、いい家づくりの象徴としての卵、嘘のない茗荷村の生活に裏打ちされた「うまか卵」運動のこと、応援していきたいと思う。

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