茗荷村通信「集団移住。我々はどうやって、ここを離れたか」


茗荷村通信「集団移住。我々はどうやって、ここを離れたか」

「もし、ここを出る気があるのなら、協力を惜しまない。」

昭和47年、未曾有の台風災害の後、大萩が集団移住する事になっ

たのは、災害復旧中で大騒ぎの大萩に当時の県知事「野崎欣一郎」

氏(当時50歳)が駆けつけ、提案されたことがきっかけだ。たまた

ま、町民運動会に表敬訪問されていた知事に、中学校長の石森庄作

さんが声をかけてくださり実現の運びとなった.惨状を見て思わず

おっしゃったのか、何か思うところがあったのかは定かではないが

、(ちなみに当時の野崎氏は琵琶湖総合開発特別措置法を制定させ、

乗りに乗っていた時代である)それを聞いた当時の役員さんは、も

う一度、真意を訊きたいと、其の夜、彦根で宴会中だった知事の所

まで押しかけて確かめに行かれたそうである。「昼間の話は本当で

すか?」問い詰める役員さんに、「上岸本に県の土地がある。そこ

はどうや.」と、その日のうちにそんな具体的な話も出たらしい。

それで、いっきに移住という方向に事が進んでいく事になったわけ

である。当時の大萩はというと、学校を出ると、みんなよそに出て

しまうので人口がどんどん減って、このままでは自然消滅するので

はと云う危機感があった。現実的には八日市他、下の地域に新天地

を求めて、個人的に出て行こうとしている家庭がたくさんあったと

思う。そこで問題となっていたのは、出て行ける人もあれば、どこに

も行けない人も居る事である。後に残された人はもっと厳しい環境

になる事が想像された。「集団移住」ならば、解決できるかもしれ

ない。みんなで一緒に移住するという思いは、日増しに増していっ

たのだろう。その年末に行われた総集会では無記名ではあったが、

全戸の人が賛成票を投じた。つまり、辻仁一氏も最初から反対して

いたわけではなかったと聞いている。しかしながら、割り切れない

思いを持った年配者は、村の実力者である仁一さんの所へ、なんと

か移住を止めるように画策出来ないか頼みに集まり、反対運動が始

まった。そして一次は村を二分する様な状態になった。山村の自治

は、全員一致が原則であり、なかなか前に進まない膠着状態が暫く

続いた。事態を打開するため、村山孝三氏、野瀬昌三氏らをリーダ

ーとして、大萩若者有志による「萩栄会」が結成され対話と話し合

いがもたれた。そんな中で生まれたのが、県からもらった土地を、

公平に分け合い平等な理想郷を作ろうという理念である。その会の

活躍もあってか、次の年2月には県に「移住要望書」が出されて、

一応の意見集約がなされた。移住計画が進む中、水を差すような事

件が起こった。災害の一年後に第一次オイルショックがあり、日本

中が大混乱。建築材料などは、いきなり倍近くの高騰した。そして

、困難はまだまだ続く。住民は、下の土地に移住しても、この大萩に

時々通って、山仕事に従事しようとしていたのであるが、(当時約

30%の世帯が山仕事を生業としていた。)移住補助金を出す代わ

りに、今住んでる土地は県が危険区域に指定して、強制的に買い上げ

るという通達が来たのだ。大字としては到底、呑める条件ではない

ので最初は、役員間でも、内容は伏せられていたようである。そのこ

とが公になったとき、辻村長は、激高されたと聞く。「わしは残る

。絶対、出て行かん。」そして、そこで全員一致の原則は崩れた。

 

それでも翌年になると、土地の造成も始まり、いよいよ建築工事が

始まった。借入金1億6000万円、県国の補助金9080万円に

対して、総工費3億2000万円。どうしてもお金が足りない。あ

と7000万円。追い詰められた役員さんは、県の話を呑むしかな

い。苦肉の策として、土地は売っても、地上権は大字にあると、県に

対して交渉を続けた。そして終に昭和49年11月1日、危険区域

内土地売却代金の内金として、県から2700万円を頂いた。内金

なのでまだ交渉の余地はあるはずだった。ところが、またしても、

大事件が起こる。11月7日、県知事選が行われ、頼みの野崎氏が

負けてしまったのである。わずか8000票の差だったと記憶する

。困難の中での僅かな救いは、「小さい頃から、どんなに苦しくて

も、いつか、楽園(パライソ)でみんなが平等に暮らせる日が来ると

聞いていた。それが今度の移住やね。」と話してくれた80歳を超

したおばあさんの一言だった。

紙面が尽きました。以下次号に続く。

室末時代から百済寺の奥の院として栄えた旧大萩町は、昭和50年、集団移幕を閉じた幕を閉じた

室末時代から百済寺の奥の院として栄えた旧大萩町は、昭和50年、集団移幕を閉じた幕を閉じた

 

 

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